近年、人工知能の発達はめざましく、最近ではデジタルカメラの画像の中から、全身の関節位置の座標を自動的に収集できるようになってきました。
我々は人工知能の技術とモーションシンセサイザーの技術を組み合わせることであたらしい動作分析手法を開発したので、紹介します。
今回は、この動作分析手法を用いて、投球動作と理学所見の関係性を探りたいと思います。
人工知能
ここにいま普通のデジカメで撮影した投球動画があります。
この動画に人工知能のアルゴリズムをかけていきますと、全身の関節を自動的に検出して、その座標値を取得することができます。
そして、全身の姿勢を推定することができるのです。
今回はこれまでの技術を応用して、理学所見と投球動作の関連性を探りたいと思います。
対象は高校野球部員60名で、三脚と家庭用のデジタルカメラを用いて投球動作を撮影しました。
このときに同時にフィジカルチェックも行いました。
今回、関連性を探るフィジカルチェックは
① 踵臀部距離
② 拳上外旋
③ 肩甲帯内転
の3つです。
いずれも近未来の投球障害の発症と関連性を認めるフィジカルチェックです。フィジカルチェックの詳細はこちら。
収集した60名分の動画に人工知能のアルゴリズムを導入しました。
すると全身の18個の特徴点のX座標とY座標が求まります。
今回投球動作の解析区間はセットポジションからボールリリースまでとして、この区間を時間で正規化し、60フレームとしました。
そうしますと、1試技あたりの総変数は
18点 x 2座標 x 60コマ =2160(変数)となります。
ここまで収集したデータをデータベース化し、解析を開始しました。
解析のアウトラインを示します。
まず、データベースに相関行列・主成分分析を行い、データベース内の動作情報のパターン(主成分)を抽出しました。
その後、各主成分(動作)とフィジカルチェックとの相関関係を調べていきました。
最後に、フィジカルチェックと関連性の高い主成分を最適化手法を用いて合成していくと、最も関連性の高い動作パターンを求めることができます。
まずは平均動作を求めてみました。
赤:踵臀部距離の大きい(固い)選手の平均動作
青:踵臀部距離の小さい(柔らかい)選手の平均動作
を示します。
踵臀部距離が大きいと、体全体がやや後傾し、体重移動がやや難になる傾向がみられました。
モーションシンセサイザーで解析すると、踵臀部距離が大きい選手と小さい選手の特徴の違いが明瞭になります。
踵臀部距離が大きいと、スティックピクチャーのようになる傾向があるようです。
体全体がやや後傾していますね。
スティックピクチャーだけだとわかりにくいので、
k近傍法という方法を用いて、このスティックピクチャーに最も似ている選手で実際に踵臀部距離の大きい選手と小さい選手の動画と重ねあわせてみました。
k近傍法という方法を用いて、このスティックピクチャーに最も似ている選手で実際に拳上位外旋角度の大きい選手と小さい選手の動画と重ねあわせてみました。
拳上位外旋角度が大きい方が、最大外旋位が大きくなり、上体のしなりをうまく使っているように見受けられます。
k近傍法という方法を用いて、このスティックピクチャーに最も似ている選手で実際に肩甲帯内転角度の大きい選手と小さい選手の動画と重ねあわせてみました。
肩甲帯内転が大きい方が、上体のしなりをうまく使っているように見受けられます。
これまで、過去の学会や論文をみてみると、
理学所見と痛みとの関連とか
投球動作と痛みとの関連とか
単純な単変量解析でものごとを述べることが多かったと思います。
ただ、物事そんなに単純ではないのでは・・・と私は学会の発表を聞きながらいつも矛盾を感じていました。
しかし、近年、統計学の進歩や人工知能の発達によって、
非常に多くの変数を同時に解析できるようになってきています。
投球動作、理学所見、痛み、パフォーマンス・・・
スポーツはいろいろな要因が絡み合っています。
ならば、今後は様々な要因を多変量解析で分析するべきだと思っています。そして、投球動作-理学所見-痛み-パフォーマンスをすべてつなげて解析するべきだと考えています。
そうすることで、今後スポーツ科学は飛躍的に発達するだろうと予想していますし、そう願っています。
長い文章をここまでお読みいただきありがとうございました。